日別アーカイブ: 2021年7月29日

政府「黒い雨」上告見送りを知って

26日政府は広島への原爆投下後の放射性物質を含む「黒い雨」を浴びた住民84人を被爆者と認め、被爆者健康手帳を交付すると決めた。これを知って、私は原爆症認定申請照会への回答を何度か書いた患者さんのことを思い出した。この患者さんは被爆者と認定されないことで国は冷たいと嘆き、私が「国の審査基準が厳しいから何回申請されても認定されませんよ」と説明したが、私にもう一度書いて欲しいと何回か書類を持ってきた。私は古い地図を見つけ爆心地から被爆地までの距離を可能な限り遠く見積もって、現状の病気との因果関係を証明した書類を仕上げた。今生きておられたら「黒い雨」を浴びた一人として救済されたかもしれないと思った。またダメだったと、この患者さんは大変悲痛な顔をして、国は冷たいとつぶやきながら、私に茶色い封筒を渡した。封筒の中には「自分は国のために何十年も働いてきたのに被曝者と認めてくれなかった。先生はダメだとわかりながら自分と国と闘ってくれた。本当に感謝しています。」と書かれた便箋が入っていた。それから、この患者さんは急激に認知症が進み、持病の心臓病が原因で亡くなられた。3年前のことである。

スクリーンショット 2021-07-29 8.37.18