MKさんのこと

先日病棟で86歳の女性MKさんが亡くなられたが、ずっと変な親しみを抱きていた理由がわかり、地域医療に従事する者として記述してみたくなりました。変な親しみとは、こういう意味です。この方は約1年前に他の医療機関からの紹介状を持って家族に連れられて外来にやってこられたわけですが、初対面な感じがしませんでした。MKさんは自分のことをうまく話せない様子で長男夫婦がいつも代弁してくれていました。この長男夫婦もはっきりと言わないものですから、MKさんの夫が16年前に私がここに院長として赴任して初めて胃瘻造設を試みた患者さんだったこと、そしてMKさんの夫を毎週訪問診療していて、その時いつも横にいて介護の苦労話をしていたのがMKさんだったことがほんのこの間わかりました。地域医療に関わるかかりつけ医として16年間という時間の中で老夫婦二人を看取ったわけです。発語ができなくなったMKさんに色々なつかしい話をベッドサイドで話したのが、およそ1か月前。微笑んでくれました。それから病態が悪化して亡くなられました。ちょうど病棟回診の最中でした。死亡確認のためにMKさんの右目に触れた時に一筋の涙が流れました。小さく「あっ、涙!」と私は言ってしまったのですが、家族も看護師も誰も気づきませんでした。それが良かったと思いました。きっとMKさんは私に対してだけ流してくれた涙だったんだと思えました。

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